試用期間中の能力不足の発見
2019.12.27 - Friday
問題の事象
試用期間中の社員について、あまりにも能力がなく、本採用の拒否を考えています。
どのようなプロセスが必要なのでしょうか。
解説(基本的な考え方)
労働者が企業に入社してから一定期間(3か月や半年程度が一般的)の間は、見習いの期間として、
いわゆる「試用期間」の定めを置く場合が多く見られます。
試用期間経過後には本採用となり、本採用以降の解雇については、
通常の解雇権濫用法理(労契法16条)が適用されることになります。
しかしながら、試用期間においては通常の解雇と異なり、ある程度は寛容となる傾向があります。
本件のような試用期間中の能力不足の場合ですが、教育訓練を受けても改善の余地がない、
その者を引き続き雇傭することが適当でない場合には本採用拒否が可能になる場合があります。
トラブル回避できない場合のリスク
裁判では、本採用拒否の法的性質について、「一定の合理的期間の限定の下にこのような留保約款を設けることも、
合理性をもつものとしてその効力を肯定できる」とし、
「このような留保解約権に基づく解雇は、これを通常の解雇と全く同一に論ずることはできない」としています。
このように、試用期間は既に雇い入れ後の問題であるため、通常の社員と同様に解雇権濫用法理の問題になるけれども、
試用期間中は解約権が留保されているため、通常の解雇よりもその範囲が広い旨判示しています。
しかしながら、本採用拒否の理由が不当解雇に該当すると、人件費のコストだけでなく、
損害賠償等のプラスアルファのコストが発生するため、注意が必要です。
規程・マニュアル作成上のポイント
能力不足による本採用拒否については、実際に裁判で争った場合の有効性が担保できるケースはそう多くないので、
まずは退職勧奨を中心に、退職の条件交渉を進めることが多くみられます。
ただし、退職勧奨中に試用期間を経過して、本採用拒否とならないように、試用期間が経過しそうな際には、
就業規則に基づき、試用期間の延長手続きを取った方が良い場合もあります。就業規則に手続き延長の規定がない場合は、
合意により延長したとしても、就業規則を下回る合意となって、労契法12条により当該合意が無効となる可能性があります。
なお、試用期間の延長規定について、「その適用は、合理的な事由のある場合」とされていますが、
能力不足の疑いがあり、本採用の適否を明らかにするためという理由は合理的と解するのが一般的です。
運用上のポイント
試用期間中というのは本来教育訓練を行うことが要求される時期であることからすれば、
その過程において発覚した能力不足が「その者を引き続き当該企業に雇傭しておくのが適当でない」というレベルであるためには、
今後教育訓練を続けても改善する見込みがないことまで立証する必要があると解されます。したがって、拙速な判断は避けるべきであり、
段階を踏む必要があります。さらに単なる指導だけではなく、求めるレベルと現状とのギャップ、改善に向けたアプローチが必要になります。
本採用拒否を回避しようと尽くしたという意味でも、まずは、退職勧奨を行い、合意退職を目指すべきでしょう。
人材マネジメント上のポイント
採用時において、どのような人材を求めているかどうかを明確にし、その要件に合致した人材を採用することが求めれます。
しかし、職務経歴書等から確認することが通常ですが、中には誇張表現等があり、的確に反映できない可能性があります。
そのため、身元調査は一番、近いと思われますが、難しい側面も多々あります。解決の方向性としては、以下の2点かと思われます。
1)求める人材像を行動特性・取り組み姿勢から可視化すること
個人の特性としては、具体的には行動特性が挙げられます。
この個人の行動特性と現在の業務において求める行動特性とのギャップが高い場合には
もしかするとその仕事に向いていない場合があります。
また、会社・業務に対して、取り組み姿勢が高いのか、
それとも単に生活のためだけに働いているのかという本人の志向性も重要になってきます。
2)従事して欲しいジョブを明確にすること
欠員にせよ、増員にせよ、採用予定者が従事することが予定されている業務等を
明確にすると同時に、その到達レベルを可視化していくことにより、
その内容に沿った質問等をすることが可能になります。
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