欠勤による有給休暇
2019.12.27 - Friday
問題の事象
昨日、病気で欠勤したA従業員が、今日になって「昨日の欠勤を有給休暇で処理して欲しい」と要求してきました。
この場合、有給休暇を与えなければならないのでしょうか。
解説(基本的な考え方)
労働基準法における有給休暇は、あくまでも事前の申請を要件としています。
社員の時季指定は、会社において事前に時季変更の要否を検討し、
当該社員に告知するに足りる「相当の時間」を置かなければなりません(東京貯金事務センター事件・東京地判・平5・3・4・労判626号56頁)。
この「相当の時間」とは、どんなに遅くても休暇が始まる前に申請しなければなりません。
0時から24時の間において成立するという年次有給休暇の性質上
(原則として、年次有給休暇は「一労働日」単位で取得するものであり、
その「労働日」は暦日計算によるものとされています(昭26・9・26基収3964号、昭63・3・14基発150号))、
年次有給休暇を取得しようとする社員は、遅くてもその前日までに取得申請を行うことが求めれます。
会社が承認した場合に初めて、年次有給休暇の取得や振り替えが認められることなります。
これが認めらないからといって、特段の事情がない限り、違法になることはありません
(東京貯金事務センター事件・東京地判・平5・3・4・労判626号56頁)。
しかし、必ずしもその通りではなく、その会社の「慣習」に左右されます。
他の社員も同じような取り扱いをしているのであれば、有給休暇を与える必要があります。
逆に、そのような慣習がなければ与える必要はありません。
トラブル回避できない場合のリスク
年次有給休暇の振り替えやを社員の権利として認めるような就業規則上の定めや、
労使慣行の成立が認められるというような特段の事情がない限り、
会社には、欠勤日を事後的に年次有給休暇に振り返る義務はなく、そのような要求に応じる必要はありません。
「事前に届け出て体を休める」という有給休暇の本来の目的が失われると同時に、有給化取得の手続きが煩雑になる可能性があります。
年次有給休暇の振り替えを社員の権利として認めるような内容が就業規則になかったとしても、慣習として認められる場合もあり、
そのような事態になると、常に有給休暇が取得でき、そのことによる業務上の重大な支障がない解釈ができ、
本当に必要な時に、時季変更権の行使が難しくなる可能性があります。
規程・マニュアル作成上のポイント
年次有給休暇の事後申請が社員の権利として認められるような、
就業規則上の定めや労使慣行の成立が認められるような事情がある場合には、
このような振り替えに応じないことが違法になります。
そのため、有給休暇は事前申請の必要があるという記述が必要です。
いつまでに申請すべきかを記載することは可能ですが、実務運営上難しいと思います。
この場合は、あくまでも「事前に」もしくは「取得開始前」という文言のみ記載し、実際は運用に委ねる方が良いかと思います。
また、その場合において、時期委変更等の内容を踏まえておくことも重要です。
しかし、単に踏まえるだけでなく、年次有給休暇の取得の利用目的・理由を、
①事業の正常な運営を妨げる場合、
②数人が同じ日に取得する場合において、
時季変更権の行使の判断において利用目的・理由を考慮するために
年次有給休暇の利用目的・理由を会社が確認することについては適法であると考えられています。
運用上のポイント
有給休暇はよほどの事由がない場合、与えることが必要です。
しかしながら、他の従業員の従業員に対して、当日又は事後の有給休暇を認めてしまうと、
すべての従業員にそのような対応が必要になってきますので、注意してください。
一般的な就業規則(ひな形等)においては、「事前申請」や「時季変更権」についての記載があるものが多いですが、
慣習上それらが形骸化している場合などは、いざ適用という事態になっても法律的には認められない場合があります。
そのため、原則としては例外を認めるべきではありません。
しかし、実運用としては、認められる場合が多い現状を踏まえると、
病気の場合、例えば1日のみ認める、会社の繁忙等においては認められない場合がある等の運用をするとリスク軽減につながるのではないでしょうか。
人材マネジメント上のポイント
有給休暇の利用目的の記載等のルールの構築等が重要になりますが、意識面の改善も図ることが必要だと思われます。
病欠を限りなく減少するという主旨で、責任感の醸成・助け合いを促すような仕掛けが必要だと思われます。
アプローチは様々ですが、一例として、当該組織のタスク・目標の共有が挙げられます。
目標管理がその手段の一つですが、本来、会社全体目標からブレイクダウンされた、各ユニットごとの目標を達成するために、
各人ごとにミッション等が割り振られ、各人ごとに「何をどのようにするのか」、
進捗が未達な場合は、「それをどのように改善するか」ということを、
上司と部下でその都度、考え、改善していくことが本来の流れです。
その仕組みを活用して、組織のミッションを構成員すべてにタスク分けを行い、進捗を管理するという別のアプローチが必要になります。
その際、勿論、従事しているジョブ、そして、それに紐付くグレードに応じて、そのタスクが割り振られるべきだと思われます。
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