給与計算の社内ミスは担当者の責任?発覚後の対応と仕組みの見直し方
最終更新日:2025.09.28
「給与計算を間違えてしまった……どうしよう」 「従業員への説明やお詫び、どうすればいいんだろう?」 「今後のために、再発防止策も考えておかないと……」
給与計算は、従業員の生活に直結する非常に重要な業務です。 だからこそ、ミスが発覚したとき、担当者の方は大きなプレッシャーを感じてしまいますよね。
しかし、給与計算のミスは、どれだけ気をつけていても起こりうるものです。 大切なのは、ミスが起きてしまった後に、いかに迅速かつ誠実に対応し、そして同じ過ちを繰り返さない仕組みを作れるか、ということです。
- 給与計算のミスが発覚した際の具体的な初動対応
- 過払いや不足があった場合の法的な注意点と実務
- 二度とミスを繰り返さないための具体的な再発防止策
- 専門家へのアウトソーシングという選択肢
この記事では、給与計算のミスが発覚したときに、まず何をすべきかという初動対応から、具体的な再発防止策、さらには専門家へのアウトソーシングという方法まで、分かりやすく解説します。
この記事を読めば、今の不安な状況を乗り切るための道筋が明確になります。 まずは落ち着いて、一つずつ確認していきましょう!
給与計算ミスが発覚した!すぐやるべき「4つのこと」

給与計算のミスに気づいたとき、何よりも大切なのは、パニックにならず冷静に、そして順序立てて対応することです。
焦りはさらなるミスを招く可能性があります。 まずは深呼吸をして、やるべきことを一つずつ着実に進めていきましょう。
①:影響範囲を確認して、上長に報告する
最初に行うべきは、事実確認と影響範囲の特定です。なぜなら、全体像を正確に把握することが、その後の対応を誤らないための絶対的な前提となるからです。
まず、「いつの」「誰の」給与について、「どの項目で」「いくら」の計算間違いがあったのかを正確に把握します。 給与明細や勤怠記録、雇用契約書などを手元に集め、具体的な間違いの箇所と金額を特定しましょう。
同時に、なぜそのミスが起きたのか、原因の切り分けも行います。 単純な入力ミスなのか、計算式の誤りなのか、あるいは制度の解釈を間違えていたのか、原因によってその後の対応も変わってきます。
影響範囲の確認も重要です。 そのミスが特定の従業員一人のものなのか、複数名、あるいは全従業員に関わる問題なのかを見極めます。 場合によっては、過去の給与計算までさかのぼって同様のミスがないかを確認する必要も出てくるでしょう。 給与から天引きする源泉所得税や、健康保険・厚生年金といった社会保険料の金額に影響がないかもあわせて確認します。
事実確認と影響範囲の特定がある程度できたら、決して一人で抱え込まず、直属の上司に速やかに報告してください。担当者一人で解決しようとすると、判断を誤ったり、対応が遅れたりするリスクがあります。会社全体の問題として捉え、組織として最適な対応方針を決定するためにも、迅速な報告と情報共有が不可欠です。 そして、経理部門なども交え、会社としてどのように対応していくかの方針を協議しましょう。
②:「過払い or 不足」を特定する
給与の計算ミスは、大きく分けて「不足払い(本来支払うべき額より少なく支払った)」と「過払い(本来支払うべき額より多く支払った)」の2つのケースがあります。
なぜこれを特定する必要があるかというと、どちらのケースに該当するかによって、法的な注意点や従業員への説明方法、返金・追給の手順が全く異なってくるからです。初期段階で方向性を間違えると、法的なトラブルに発展しかねません。 そのため、まずは自社のケースがどちらに当たるのかを正確に特定することが、適切な対応への第一歩です。
「過払い」時の対応
過払いとは、会社が従業員に本来支払うべき給与額よりも多く支払ってしまった状態のことです。 会社としては当然、払い過ぎた分を返還してもらいたいところですが、ここで注意が必要です。
会社が一方的に、翌月の給与から過払い分を天引き(相殺)することは、労働基準法第24条で定められた「賃金全額払いの原則」に違反する可能性があります。 従業員の生活を守るため、会社が勝手に給与を差し引くことは認められていないのです。
過払い分の返還を求める際は、まず該当する従業員に状況を丁寧に説明し、返還方法(翌月の給与からの天引き、または振込など)について、本人の同意を得る必要があります。 必ず、同意書などの書面を交わしておくようにしましょう。
ただし、計算ミスであることや、過払いになった時期、金額などが明確である場合は、翌月の給与で精算(調整的相殺)が認められるケースもあります。 とはいえ、無用なトラブルを避けるためにも、まずは従業員と真摯に話し合うことが大切です。
「不足」時の対応
不足払いとは、会社が従業員に支払うべき給与を、本来の額より少なく支払ってしまった状態です。 これは、従業員にとっては賃金の未払いにあたります。
賃金の請求権は、当面の間は3年間有効です(2020年4月1日の民法改正により、将来的には5年に延長)。 不足分が発覚した場合は、会社は速やかに従業員へ差額を支払う義務があります。
対応としては、まず従業員に謝罪し、不足額と支払日を明確に伝えます。 そして、次回の給与支払い日に上乗せして支払うか、あるいは別途、即日支払うなどの対応を取ります。 遅延損害金が発生する場合もありますので、可能な限りすばやい対応を心がけましょう。
③:必ず誠実にお詫びをする
給与は、従業員の生活の基盤であり、会社と従業員の信頼関係の証でもあります。 その金額に間違いがあったという事実は、従業員に経済的な影響を与えるだけでなく、「会社は自分のことを大切に扱ってくれていないのではないか」という不安や不信感を抱かせてしまいます。 だからこそ、金額の訂正や差額の支払いといった事務的な対応だけでなく、何よりも先に、誠心誠意のお詫びをすることが、傷ついた信頼関係を回復し、従業員のエンゲージメントを維持するために不可欠なのです。
直接、対面で謝罪するのがもっとも丁寧ですが、難しい場合は電話やメールで速やかに第一報を入れ、その後、改めてお詫び状や説明文書を手渡すのがよいでしょう。 そのとき、ミスの内容と原因、そして今後の対策を具体的に説明することが大切です。
お詫び文の参考例
件名:【重要】〇月分給与の支給額に関するお詫びとご報告
〇〇様
〇〇部の〇〇です。 この度は、先般お支払いいたしました〇月分の給与支給額に誤りがございました。 皆様の生活に関わる大切な給与において、このような事態を招き、多大なるご迷惑とご心配をおかけしましたこと、心より深くお詫び申し上げます。 誠に申し訳ございません。
今回の計算ミスは、〇〇(例:残業代の集計プロセスにおける手入力の誤り)が原因で発生いたしました。 現在、全従業員様を対象に影響範囲の確認を進めており、判明した事実に基づき、以下の通り対応させていただきます。
【過払いがあった場合の文例】
本来〇〇円をお支払いすべきところ、〇〇円を多くお支払いしている状態となっておりました。 つきましては、大変恐縮ではございますが、過払い分の〇〇円をご返還いただきたく、お願い申し上げます。 返還方法につきましては、次月(〇月)の給与より相殺させていただきたく存じますが、ご同意いただけますでしょうか。 別途、個別に同意書をお持ちいたしますので、ご確認・ご署名いただけますと幸いです。 (現金での返金など、別のご希望がございましたら、お気兼なくご相談ください。)
【不足があった場合(未払い)の文例】
本来〇〇円をお支払いすべきところ、〇〇円の不足が生じておりました。 不足分の〇〇円につきましては、〇月〇日に、給与振込口座へ追加でお振り込みさせていただきます。 お振込が完了いたしましたら、改めてご連絡いたします。
今後は、複数名でのダブルチェック体制を徹底し、二度とこのような事態を招かぬよう、再発防止に万全を期してまいります。 この度は、誠に申し訳ございませんでした。
ミスの要因を特定して、改善策を打つ
一連の緊急対応が完了したら、それで終わりではありません。最も重要なのが、この経験を未来に活かすことです。
なぜ今回のミスが起きてしまったのか、その根本的な原因を特定し、具体的な再発防止策を講じなければ、単なる「場当たり的な対応」で終わってしまいます。 これをおろそかにすると、また同じ、あるいはさらに大きなミスを繰り返し、会社の信頼を根本から揺るがす事態になりかねません。ミスを個人の責任で終わらせず、組織の仕組みを改善する機会と捉えることが、強い会社を作る上で不可欠です。
再発させないために行うべき改善策

給与計算のミスは、担当者の注意不足だけで片付けられる問題ではありません。 多くの場合、その背景には、特定の担当者しかやり方が分からない「業務の属人化」や、「チェック体制の不備」「アナログな作業による限界」といった、社内での給与計算が抱えがちな構造的な課題が潜んでいます。
ここでは、ミスの再発を防ぎ、より正確で効率的な給与計算体制を築くための具体的な改善策を4つ紹介します。
チェックリストを作成する
なぜなら、給与計算は工程が複雑で多岐にわたるため、担当者の記憶力や注意力だけに頼る仕組みには限界があるからです。誰がやっても同じ品質を保ち、人的ミスを構造的に防ぐためには、作業手順の標準化が不可欠です。
給与計算には、勤怠データの集計から各種手当の計算、税金や社会保険料の控除まで、数多くの確認項目が存在します。 これらの項目を個人の記憶や経験だけに頼っていると、どうしても確認漏れや勘違いといったヒューマンエラーが発生しやすくなります。 そこで役に立つのが、誰が作業しても同じ品質を担保できる「チェックリスト」の作成です。
「勤怠の締め処理は完了したか」「残業代の割増率は正しいか」「今月から社会保険料の改定対象者はいないか」など、計算の各段階で確認すべき項目を具体的にリストアップします。 このリストに沿って一つひとつチェックを入れていくことで、確認漏れを確実に防ぐことができます。
ダブルチェック体制を実施する
人は誰でも「思い込み」や「見落とし」をする可能性があります。特に、自分で入力・計算した内容を自分自身でチェックする場合、ミスに気づきにくいものです。客観的な第三者の視点を入れることで、一人では見逃してしまうような細かなエラーを発見する精度が格段に上がります。
一人の担当者が計算から最終確認まですべてを行っている場合、思い込みや見落としによるミスが起きやすくなります。 そこで、計算担当者とは別の担当者が、もう一度同じ手順で計算・確認を行う「ダブルチェック体制」の導入が役に立ちます。
一次チェックと二次チェックで担当者を分けることで、客観的な視点での確認ができ、ミスを早期に発見できる確率が格段に高まります。 可能であれば、経理や労務の知識がある別の従業員に二次チェックを依頼するのが理想です。
給与計算スケジュールを見直す
なぜなら、時間的なプレッシャーは、冷静な判断力や注意力を著しく低下させるからです。焦りが生まれると、普段ならしないような単純な入力ミスや確認漏れが起こりがちになります。ミスを防ぐためには、担当者が精神的な余裕を持って作業に集中できる環境を、スケジュール管理によって作り出すことが重要です。
給与計算のスケジュールがタイトであることも、ミスを誘発する大きな原因の一つです。 特に、給料日の直前に勤怠データを締め切り、慌てて計算作業を行っているようなケースでは、焦りから入力ミスや確認漏れが起こりがちです。
勤怠の締め日から給料日までの期間に十分な余裕を持たせられるよう、スケジュール全体を見直しましょう。 たとえば、勤怠の締め日を少し早める、従業員からの勤怠申請の提出期限を徹底するなど、計算作業に集中できる時間を確保するための工夫が必要です。
システムの導入による自動化
手作業には、ヒューマンエラーが介在する余地が常に残ります。また、毎年のように行われる法改正や保険料率の変更を手作業で正確に反映し続けるのは、担当者にとって非常に大きな負担となり、ミスの温床にもなります。これらの定型的な作業をシステムに任せることで、人はより複雑な判断が求められる業務に集中でき、計算の正確性と業務効率を両立させることができます。
手計算やExcelでの給与計算は、自由度が高い反面、計算式の誤りや手入力によるミスが起こりやすいというデメリットがあります。 毎月の法改正や保険料率の変更に対応するのも、担当者にとっては大きな負担です。
給与計算システムを導入すれば、勤怠データを取り込むだけで給与が自動計算されるため、ヒューマンエラーを大幅に削減できます。 法改正や保険料率の変更にも自動でアップデート対応してくれるため、担当者は複雑な計算作業から解放され、より重要な業務に集中できるようになります。
給与計算のアウトソーシング(代行)を頼るのも一つの手

ここまでの再発防止策を自社で実行するのが難しい、あるいは、人事担当者が会社の利益に直結するような「コア業務」に集中できる環境を作りたいと考えているなら、給与計算業務そのものを専門家へアウトソーシング(外部委託)するのも非常に有効な方法です。
社会保険労務士(社労士)や給与計算代行サービスは、給与計算のプロフェッショナルです。 法改正への正確な対応はもちろん、複雑な残業代計算や社会保険の手続きまで、すべてを正確に代行してくれます。
私たち「さかえ経営」では、単に給与計算を代行するだけでなく、お客様の業務フロー全体をヒアリングし、より効率的でミスの起こりにくい体制づくりをサポートする「カイゼン給与計算」サービスを提供しています。 現在お使いの勤怠システムを問わず、勤怠データをそのままお預けいただくことが可能ですので、お客様側で面倒なデータ準備をする手間もかかりません。
給与計算ミスを「会社の成長痛」と捉え、次の一歩へ
ここまで、給与計算ミスが発覚した際の緊急対応から、その根本的な原因、そして具体的な再発防止策までを解説してきました。
- 初動対応: ミス発覚後は、影響範囲の確認、上長への報告、従業員への謝罪を迅速かつ誠実に行う。
- 再発防止: チェックリストやダブルチェック体制を導入し、ミスが起こりにくい仕組みを構築する。
- 専門家の活用: 自社での対応が困難な場合は、社労士など専門家へのアウトソーシングも検討する。
- 体制の見直し: ミスを個人の責任にせず、会社の給-与計算体制を見直す機会と捉える。
今回のミスは、決して担当者一人の責任ではありません。 むしろ、会社の給与計算体制そのものが、企業の成長に合わせて見直すべき時期に来ているという重要なサインです。
この問題を「担当者の注意不足」で終わらせてしまうと、会社はまた同じ壁に突き当たってしまいます。 私たち「さかえ経営」が提供する「カイゼン給与計算」は、単に計算を代行するのではありません。 お客様の業務フロー全体を見直し、ミスが起こりにくい仕組みづくりそのものをお手伝いすることで、人事担当者の方が本来のコア業務に集中できる環境を整えます。
もし、「自社だけでは何から手をつければいいか分からない」と感じているなら、その課題を一人で抱え込む必要はありません。 ぜひ一度、私たちにご相談ください。 あなたの会社の状況に合わせた、最適な一歩を一緒に考えます。