問題の事象
社員の能力と今後のキャリアを考え、引っ越しを伴う配置転換を検討しています。
当該社員には育児中の未就学の子がいるのですが、転勤を命じることはできるのでしょうか?

解説(基本的な考え方)
会社は一定の範囲で社員の勤務地や職種を変更する権限(いわゆる人事権)を有しています。
ただし、育児中の社員に対する配置の変更では、
社員が就業しつつその子の養育を行うことが困難とならないかどうか配慮する
必要があります。
社員の転勤について
最高裁は、東亜ペイント事件(昭和59年(オ)1318)で
・業務上の必要性が存すること
・転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものでないこと
・労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものでないこと
を条件に、
使用者は業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所を決定することができる。
と判じており、これにより会社は業務上の必要に応じて引っ越しを伴う転勤を命じることができるといえます。
育児中の社員の転勤について
育児・介護休業法
育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(育児・介護休業法)は、
事業主は、その雇用する労働者の配置の変更で就業の場所の変更を伴うものをしようとする場合において、その就業の場所の変更により就業しつつその子の養育又は家族の介護を行うことが困難となることとなる労働者がいるときは、当該労働者の子の養育又は家族の介護の状況に配慮しなければならない。(26条)
と定めており、この26条について厚生労働省は次のように説明しています。
「困難となることとなる」とは?
「困難となることとなる」かどうかについては、
・配置の変更後における通勤の負担
・当該労働者の配偶者等の家族の状況
・配置の変更後の就業の場所近辺における育児サービスの状況
等の諸般の事情を総合的に勘案し、個別具体的に判断すべきであるとしてます。
「配慮」とは?
「配慮」について
子の養育又は家族の介護を行うことが困難とならないよう意を用いること
と示した上で、
配置の変更をしないといった配置そのものについての結果や労働者の育児や介護の負担を軽減するための積極的な措置を講ずることを事業主に求めるものではない
としています。
つまり、育児中の社員の転勤自体を禁止しているわけではなく、
社員の事情をよく勘案し、育児が困難にならないように気を配ること
を求めています。
また「配慮」の具体例として
・当該労働者の子の養育又は家族の介護の状況を把握すること
・労働者本人の意向をしんしゃくすること
・配置の変更で就業の場所の変更を伴うものをした場合の子の養育又は家族の介護の代替手段の有無の確認を行うこと
と例示しています。
まとめ
育児中の社員に転勤を命令するにあたって、
・配慮義務を果たさず、一方的に命令した場合
・保育施設が整備されていない地域に転勤を強制した場合
・過去の育児休業取得などを理由とする報復的な人事と疑われる場合
・転勤以外の業務調整手段があったにもかかわらず、それを一切検討していない場合
などのケースでは転勤命令が無効・違法とされるおそれがあります。
・転勤の可能性について就業規則で定めておく
・業務上の必要性や他の候補について客観的に整理する
・育児との両立が可能かどうか、本人の意見を聞く
など、転勤先でも気持ちよく力を発揮してもらえるようなプロセスを踏むことが大切です。