外注先社員の自殺問題について、発注元企業は雇用関係がなくても責任を追及されることはありますか?
最終更新日:2024.10.24
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外注先社員がうつ病で自殺。遺族は発注元に損害賠償を求めていますが応じるべき?
A社は製品検査業務をB社に外注し、労働者D(B社所属)がA社工場で現場責任者C(A社所属)の下で働いていました。
しかしながら、B社の労働者Dがうつ病を患い、自殺という結果に至りました。
その原因が「A社の過重過労だ」とDの遺族は訴えています。
過重労働が認定された場合、雇用関係のないA社とDですが、この事態でA社に損害賠償責任が生じうるのでしょうか。
同じく、Dに指揮命令を行わず、時間管理していなかったB社が責任が問われることがあるのでしょうか。
長時間労働とうつ病との因果関係が認められれば、発注元に損害賠償責任が生じる
長時間の勤務が行われ、現場責任者CがDに対し指揮命令をし、またはその長時間労働を見過ごしていた状況で、うつ病との因果関係が認められた場合には、A社はDの遺族に対する損害賠償責任を負います。
同様に、B社も健康配慮義務違反として損害賠償責任が生じることがあります。
労災給付認定や、発注会社に損害賠償責任が生じた裁判例
精神障害の業務上外の判断基準
厚生労働省は、精神障害が業務上か外かの判断するための精神障害認定基準を設けています。
この基準では、
と位置づけられています。
(上記認定基準より前は、「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」(平成11・9・14基発544))。
したがって、アテスト(ニコン熊谷製作所)事件・東京高判平成21・7・28(労判990号50頁。平成23年9月30日上告棄却)においては、同指針により労災保険給付が決定されています。
同指針によれば、うつ病(気分障害)などの一定の精神障害が存在する場合、自殺念慮が現れる可能性が高いことが医学的に認知されており、これらの精神障害が業務による心理的ストレスにより発生し、その結果自殺に至った者に対しては、原則として業務起因性が認められると説明しています。
アテスト(ニコン熊谷製作所)事件の詳細とその影響
アテスト(ニコン熊谷製作所)事件・東京高判平成21・7・28の事案は、契約上は業務請負の下請け労働者でありながら、事実上発注者の現場責任者の指揮命令の下で派遣労働者として業務を行っていた労働者が、過重労働によりうつ病を発症し、それが引き金となり自殺に至った事件です。
労働者の母親から発注会社、請負会社に対し、安全配慮義務違反または不法行為に基づき損害賠償請求がなされました。
この判例では、この労働者は会社の寮に単身で生活しながら交替制勤務を行っていたことなどからその生活のほとんどが会社側に依存しており、このような状況では、遺族は業務起因のうつ病発症の疑いがあることを合理的に示せば十分であり、その一方で会社側は、他に有力な原因が存在するなど、うつ病の発症が業務起因でないことを明示しなければならないとされました。
また現場責任者は労働者の業務遂行に対する指揮命令を発し、、動怠管理をして労働時間を把握していた等の事情から、、労働者の過重労働の状況を認識していた、または認識可能であったとされました。
発注会社は、
とし、労働者に対する指揮監督を行う権限を持つ現場監督者は、上記会社の注意義務に従いその権限を行使すべきであり、過重労働を放置した過失が認められるとして、発注会社の損害賠償責任が肯定されました。
常時使用する従業員に対して、雇入れ時と年1回健康診断を実施する義務がある
法令により、
があります(安衛法66条1項、安衛則43条~45条)。
また、
があります。
また、
さらに、
例えば持病がある場合でも、職場の状況や長時間労働によってそれが悪化しないように考慮しなければなりません。
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過労死や過労自殺に至る経緯と、社員を守る企業責任について
重要な点として、上記の判例では、「企業は従業員の心身の健康が損なわれ、結果的に自殺に至る可能性を予見できた」とされた以上に、
とされたことです。
さらに請負会社についても
とされ、同注意義務違反を根拠に損害賠償責任が肯定されました。
人材マネジメント上のポイント
過労死や過労自殺が発生した際には、逸失利益や慰謝料として数千万円の損害賠償請求が裁判で認定されることもあります。
しかしながら、労災保険の遺族補償給付は、これらの損害額に対して十分ではありません。
その為、労災があった場合に、労災保険給付に加えて一定額の上積み補償がなされる保険などを契約して備えておく必要があります。