パワハラにならない指導方法とは?一度の指摘でミスが直らなければ強く注意する?
最終更新日:2024.10.24
目次
一度の注意でミスが改善されず、再度きつく注意した
上司Aが部下Bに対し、Bが作成した文書の誤字・脱字が多くミスが多いとして業務上の注意・指導をしましたが、それでも改まりません。
そこで再度、前回よりきつく注意したところ、Bは「パワハラです」と言って注意・指導を受け入れません。
注意や指導はどのような場合にパワハラとなるのでしょうか?
パワハラの判断基準
部下に対する注意・指導がパワハラにあたるか否かについては、以下の基準で判断されます。
- 業務に関連しないことで部下を非難する
- 業務上の注意・指導であったとしても、注意・指導の程度や態様が度を超している
- 有形力を行使している
パワハラになり得る具体例
パワハラについては、実際に何をすればパワハラに該当するのか、十分に理解できている人は意外と少ないのではないでしょうか。
そのため、本来部下を指導・監督すべき立場にある上司が、「これはパワハラにあたるのか」などと判断に迷ってしまうこともあると思われます。
さらに、本設問のように、
ちょっと厳しく注意すると部下から「パワハラではないか」などと言われてしまう
ようでは、上司としては、注意すること自体できなくなってしまいます。
そこで、パワハラになり得る具体的な例を見ていき、パワハラとならないような注意や指導法を考えていきます。
業務外の注意・指導
上司と部下の関係は、業務に関連して生じる関係ですので、注意・指導の対象も、当然ながら業務に関連する範囲で行う必要があります。
たとえば、
- 外貌や身体的特徴
-
性格
などを指摘してからかう、といった内容は、業務とは関連しないものであることは明らかであるため、パワハラに該当するといえるでしょう。
この点、注意しないといけないのは、
です。
たとえば、部下のミスが積み重なるうちに、単なるミスに対する業務上の注意・指導にとどまらず、
「だからお前は駄目なんだ」、「お前なんか、いてもいなくても同じだ」
といった部下の人格に対する非難をしてしまうケースがこれにあたります。
注意・指導は、あくまでも犯したミスに対して行うべきものであって、ミスを犯した部下の人間性そのものを非難することは、業務上の注意・指導の範囲を超えているといえます。
注意・指導の程度や態様
ミスを注意・指導する場合に行ってはいけない手法を挙げておきます。
-
感情的になって大きな声を出す
- 同僚のいる前でさらし者のように叱る
- 部下の人間性を否定するかのような不相当な表現を用いて叱責する
これらの態様は、注意・指導する側が感情に任せて部下を非難していると受け取られる可能性があり、パワハラに該当するおそれがあるといえます。
この点、犯したミスが重大であったり、何度も注意・指導を行っても同じミスを繰り返したりするようであれば、その分、注意・指導の程度(表現など)がある程度厳しくなることもやむを得ないところです。
ただし、その場合でも上記のような感情的と受け取られかねない対応は慎むべきです。
裁判例上も、注意・指導の目的は正当であったとしても、これらの点により、
として、部下の損害賠償請求を認めたものがあります(広島高松江支判平成21・5・22労判987号29貢・三洋電機コンシューマエレクトロニクス事件)。
つまり、注意・指導を行うのであれば、そのミスの大きさにふさわしい程度で、適切な表現等を用いるべきということです。
有形力の行使について
暴行などの接触行為については、絶対に行ってはいけません。
最近はかつての鉄挙制裁のような指導はなくなってきているとは思いますが、たとえば、
と思います。
部下を注意・指導するのに手を使う必要はないのですから、いかなる理由・程度であっても、部下に対して有形力を行使することは許されないことです(さらにいえば、セクハラの観点からも、不必要な身体への接触は慎むべきです)。
パワハラの定義とは?
裁判例によると
といった要素があげられています。
また、厚生労働省の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告」(平成24年1月30日)は、
と定義しています。
しかしここで注意しておきたいのは、パワハラについて、法律的な定義があるわけではないということです。
適切な程度・態様での注意・指導であれば、パワハラにあたらない
こうした基準をもとに考えると、注意・指導がパワハラに該当するか否かは、業務に関する内容を、適切な程度・態様で注意・指導できるかどうかで決まってくるものと思います。
基本的には、ミスをしたという事実を指摘し、直すよう伝え、今後の改善を指導するといったことを、感情に流されずに実施する分には、まずパワハラに該当することはないと思います。
本設問の事例についていえば、上司Aは、部下の誤字・脱字が多いことを理由に注意・指導しているので、業務を対象として注意・指導を行っているといえます。
次に、部下Bのミスの内容は、誤字・脱字が多いという、どちらかといえば日常的なミスではありますが、他方で、
- 上司Aは、部下Bに対して一度注意・指導した
- 部下Bの対応が改善されず、むしろ反抗的な態度をとってきた
これらのことから、その分厳しく注意するのは当然といえます。
もちろん、先に述べたように人格非難を行う、大声で怒鳴りつけるといった注意・指導はいきすぎですが、そうでもない限り、上司Aの注意・指導はパワハラとはいえないでしょう。
業務に対して注意・指導するのは当然の責務。ただし冷静さが大切
会社では、業務を遂行することが社員の職務であり、その業務でミスを犯した社員に対して、注意・指導を行うのは上司として当然の責務です。
ですから、部下を注意・指導するにあたっては、適度に恐れることなく、堂々と行っていただきたいと思います。
ただし、心に留めておいていただきたいことは、
- 部下を注意・指導する対象は、あくまでも「業務上のミス」に限定されますので、指導内容がその対象から外れないこと
- 注意・指導が感情的になったり、有形力の行使になるまでいきすぎたものにならないこと
です。
特に、毎日接している部下ですので、人間関係のもつれからつい感情的になってしまうことはしばしばみられるところであり、そうした場合にパワハラと判断される可能性が高まると考えられます。
注意・指導を行う際にはくれぐれも冷静に行っていただきたいと思います。