第3回 給与計算業務の問題
最終更新日:2023.08.30
はじめに
前回は、データ化が進まない日本固有の問題、さらには医療業界から考察する人事データ化の可能性について触れました。
今回は、現在の給与計算・社会保険業務の現状と問題点について触れていきたいと思います。
給与計算業務の現状
一定の企業規模になると、人事部や総務部など人事関連の機能を担う部署があるかと思います。
しかし、人事関連の機能の範囲には企業によって違いがあります。
近年の傾向としては、人事部等の機能は、給与計算・社会保険手続き、評価制度の運用をはじめとした事務作業が中心になっています。
制度の企画、運用面のチェック等は人事部の給与関連とは別のセクション、もしくは経営陣、現業部、さらには、経営企画等のセクションが担っている場合がほとんどだと思います。
人材マネジメントの企画等をどのセクションで行っても問題ないのですが、一番の懸念は、事務機能と企画機能の分離にあると考えています。
もちろん、経理等においても、経営企画部門や現業部と分離されている場合は多々ありますが、全体の方向性の策定は、それぞれが独自で行うことは少なく、「どこか」が主体になって取り組んでいる場合がほとんどです。
経理、管理会計等の方向性の統一は、管理会計システムやBIツールの浸透から人事よりも進んでいると思います。
しかし、人事の場合は、「人事権」の所在が曖昧な場合があり、同じ人事という機能であっても、実施主体等が分かれていれば、方向性の策定、統一は難しいと考えています。
一般的な中堅企業の例をとると、人事部は給与計算等の事務作業のみ実施しており、制度に基づいて給与計算ができ、結果として、それが一定の時期に支払われればよいと考えます。
そのため、それまでの過程、他の付随情報については、無頓着になってしまう傾向にあります。
また、給与計算はいわゆる企業の基幹業務(=しなければならない業務)であるため、絶対にミス、遅配が許されないという一定のプレッシャーもあります。
その一方で、制度構築等の人事企画業務のセクションは、給与計算はできて当たり前、人事における必要な情報がなぜ共有できないのかという認識のギャップを起こしてしまう場合が多々あります。
上記の例は、少し極端な説明ですが、多くの企業が多少なりとも感じた経験があるのではないでしょうか。
しかし昨今、これらを解決するツールや、その上位概念として「タレントマネジメント」という言葉が人材マネジメントの 1 つのキーワードになってきています。
人事情報クラウドシステムの現状
以前にもお話ししたように、昨今、クラウドツールの普及によりタレントマネジメントシステムが脚光を浴びています。
システム会社、コンサルティング会社が中心になって多くのシステムが発売され、導入または検討している企業が多いのではないでしょうか。
しかし、その目的は様々です。
給与計算・社会保険手続きのデータ入力を従業員が自ら行えるように導入する企業から、人員の配置・スキル履歴等の管理をするために導入する企業など、目的は多種多様です。
しかし、システム側はあまり目的をアピールしておらず、混在している印象を受けます。
さかえ経営独自の分類ですが、タレントマネジメントを以下のように分類しました。
A型:給与計算・社会保険手続きの迅速化のため、従業員に直接入力をさせるシステム
B型:配置、スキル管理を行うため、それらの情報を一元化したシステム
C型:人事におけるすべての情報を集約し、一部分析を行うことができるシステム
A型においては、給与計算作業系のセクションが主体となって運用する場合が多いですが、B型は人事企画系のセクションが主体となる場合が多いです。
さらに、C型においては、日本において、現状、ほとんど運用されておらず、仮に運用されていたとしても、一部の巨大企業を除き、人事系のセクションが主体になっているケースはほとんどありません。
A型のものは、事務作業が中心であり、先に述べた人事セクションの分断にも対応しているため、近年多くの企業が導入、または検討していますが、B型・C型については、
これまでにない概念であり、また、人事セクションの統合もしくは必要性の共有が必要なため、ハードルが高く、導入の目的等を整理、経営・役員等の承認を得ないと導入が難しいのが現状だと思われます。
タレントマネジメントシステムの構造的問題
ここ数年、「タレントマネジメント」という言葉が急速に普及してきました。
検索すると、考え方・概念と並んで、タレントマネジメント「システム」が多く、検索上位に並びます。
「タレントマネジメント(TMと略される)」とは、従業員が持つタレント(英語で「能力・資質・才能を意味する)やスキル、経験値などの情報を人事管理の一部として一元管理することによって組織横断的に戦略的な人事配置や人材開発を行うことをいいます。(HRPro社サイトより引用)
上記のことから、本来は、B型、もしくはC型のシステムが求められますが、そもそもタレントマネジメントを行うにあたってどの情報が必要であるかを整理する必要があります。
例えば、退職者分析をするにあたって、その人が、新卒採用者なのか、中途採用者なのか、社歴、当該業務の従事履歴、ポジション・等級、評価・給与情報、時間外労働時間など、様々な情報が必要になってきます。
しかし、これらの情報が一元化されていない場合が多く、そのためにシステムの導入が求められます。
ここで重要なのは、まず頭に、「退職者分析」があることです。
タレントマネジメントという概念、さらには、タレントマネジメントシステムはあくまでも手段であり、目的ではありません。
この部分が明確になっていないと、先に述べた人事セクションの分断を統合することは難しいのではないでしょうか。
今回は人事セクションの分断による情報統合の難しさ、さらには人事DXの目的の必要性について触れました。
次回は、人事DXの目的設定から給与社会保険業務、人事からの情報収集のポイントについて触れていきたいと思います。