社員への指導・叱責はパワハラ?訴えられた際の対応や部下への指導方法を解説!
最終更新日:2024.01.24
目次
よく注意されている社員から、「パワハラを受けた」と訴えられた…
とある社員は、いつも業務ミスが多く、注意・指導が絶えません。
その日も社員にミスがあったため上司が叱責したところ、コンプライアンス窓口に「パワハラを受けた」と通報されてしまいました。
この際、会社としてはどのように対応すればよいでしょうか?
そもそもパワハラとは、優位性を理由に「精神的・身体的苦痛を与える」こと
職場のパワハラ(パワーハラスメント)とは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える、または職場環境を悪化させる行為です。
これには、部下に対する不適切な指導や、無理な要求、威圧的な態度などが含まれ、指導者が意図していなくても、その行為がパワハラと受け取られることがあります。
「職場での優位性」というと、人間関係や専門知識が豊富(先輩)など、さまざまな意味合いがありますが、当然「職場でのいじめや嫌がらせ」もパワーハラスメントに該当します。つまりパワハラの定義としては、
といった観点から検討されます。
指摘・指導との違い
指導や叱責とパワハラの大きな違いは、その『目的』にあります。
指導というのは、部下のミスや改善が必要な点に対して、アドバイスを行うことです。そのため、当然「指導」には明確な根拠に基づいて行われるべきですし、適切な言葉遣いや態度で行う必要があります。
パワハラで訴えられた際の「会社・労務の対応」は?
では実際にパワハラで訴えられた場合、「会社としてどのように対応すればよいのか?」について、詳しく解説していきます。
①:当事者同士(上司と部下)から、それぞれ事情聴取する
パワハラで訴えられた場合、まずは「なぜパワハラで訴えたのか?」を確認する必要があります。
基本的にパワハラは、以下の『6項目』のどれかに該当するため、このうちどの項目を受けたのかを踏まえて、状況を整理してください。
①:身体的な攻撃
暴行や傷害など、身体に直接的な危害を加える行為。
②:精神的な攻撃
脅迫、名誉棄損、侮辱、激しい暴言など、精神的な苦痛を与える行為。
③:人間関係からの切り離し
隔離、仲間外し、無視など、社会的な孤立を強いる行為。
④:過大な要求
実現不可能なタスクや、業務上明らかに不要なことを強制する行為で。
⑤:過小な要求
従業員の能力や経験を考慮せず、極端に簡単な仕事のみを与える行為です。
⑥:個の侵害
プライベートな事柄に過度に立ち入る行為。
また指摘した側(上司)への状況確認も忘れてはいけません。上記の内容についての「やった・やってない」だけではなく、なぜ指摘したのか、どのような意図の上での指摘なのか?を必ず確認するようにしてください。
②:当事者同士のやり取り・関わりについて調査する
言動におけるパワハラの場合、「言った・言ってない」などの押し問答になるケースが多いため、メールや会議の様子などをもとに、パワハラの証拠となる内容について調査を進める必要があります。
また証拠が不十分な場合は、同僚やチームメイトなどの第三者にも、双方の普段の関わり方・接し方について確認するようにしてください。
③:指摘・指導がパワハラに該当するか、判断する
上記の内容・証拠を踏まえて、「パワハラに該当するか否か」を判断します。また最終的な判断結果は、双方の以降の人生にも関わる大きな決断となりますので、もし判断に迷うことがあれば、会社として弁護士をたてるなどの準備を行ってください。
ここでは、あくまでも「個人の主観」をもとに判断を行わないことが大切です。
さかえ経営では、パワハラ防止のためのルール作りなど様々な就業規定の策定を法的な視点でサポートします。
懲戒、教育制度、労働時間のルールなど、どのようにしたら上手く運用できるか分からない。全て法律どおりに制度を構築すると業務が回らなくなってしまう。などお悩みのお持ちの企業の方、まずはお気軽にご相談ください。
指摘や叱責が「パワハラに該当しない」ケースは?
たとえ上司が厳しく注意や指導していたとしても、以下のような正当な理由があれば、パワハラに該当しないことがあります。
①:業務上、厳しい指導が必要なケース
生命や健康を脅かす業務態度や、会社に著しい不利益を与えかねないケースでは、再発防止の観点からも、厳しい言動や叱責が許容される場合が一般的です。
たとえば、気の緩みが当人の生命に関わる「建設業」や、患者の命を預かる「医療従事者」、その他、再発することで会社が不利益を被る可能性がある業務態度に対しては、指摘の意味合いを込めて叱責することが許容されます。
②:明らかに部下に落ち度があるケース
部下に不正やミス、改善すべき点がある場合には、厳しい指導を行ってもパワハラに該当しない場合があります。
ただしこの場合は、先の「①」と比較しても緊急性の低い(著しい不利益や生命に関わる内容ではない)ことが多いため、
・それでも再発する場合は、徐々に厳しく指摘する。
などのように、指摘する側も正当な段階を踏んだ対応を行っている必要があります。
「一方的な訴え」だった場合、会社側はどう対応すべき?
近年では、些細な指摘・指導であっても「パワハラだ」と訴えられてしまうケースが増えています。
社員(部下)による一方的な訴えだと分かった場合、会社としては穏便に解決したいところですが、それでも対応せざるを得ない場合、「社員の教育・再発防止のためである旨」を説明する必要があります。
これは弁護士などに説明するためでもありますが、まずは訴えた当人との和解のためにも、必ず説明しておく必要があります。
具体的には、以下の内容を説明してください。
・次に、「指摘しなかった場合に考えられる事態」を説明します。厳しく指摘していた場合、「なぜ優しく注意しなかったのか?」も添えておくとベストです。
・これらを踏まえて、上司のストレス発散や部下への攻撃が目的ではない旨を説明してください。
「指導 or パワハラ」の境界は曖昧。
一方で、放置しておくと業務に支障をきたすことも…
適正な業務指導とパワハラとの境界線については曖昧な点が多いところがあり、上司、部下とも明確なイメージを持っていないと、トラブルが発生する可能性があります。
またこれらを放置しておくと、上司側が部下からパワハラと主張されるリスクを恐れて、「本来必要な業務指導を萎縮させること」に繋がりかねません。
パワハラは、放置すると被害が深刻化する場合が多いところです。パワハラの結果、被害者を追い込み取り返しのつかなくなる可能性もあります。そこまでいかなくとも、職場内の雰囲気を悪化させ、従業員の職務遂行に悪影響を及ぼす可能性があるため注意が必要なのです。
個人ではなく、会社としてパワハラ防止の指針が必要
会社側としては、従業員同士の人間関係であるなどとして放置することなく、雇用管理の問題としてパワハラ防止に積極的に取り組む必要があります。
具体的な事案を素材にした研修を行うなどして、パワハラについてのイメージを従業員間で共有することが重要です。
まずは会社のパワハラ防止の指針として
①:パワハラに関する会社の方針の明確化(就業規則等に規定すること)と周知・啓発
②:相談窓口の設置と適切な対応
③:迅速な事実調査と加害者・被害者への適切な措置、再発防止措置
④:申告者・調査協力者等のプライバシー保護と不利益取扱禁止
といった措置が考えられます。
他の事案と同様に、指示した業務の具体的内容、その必要性、経緯・目的、回数等をヒアリングし、指導の有無、反省の有無等を適切に記録しておくことが必要になります。
またその内容は第三者にも納得できるように整理しておく必要があります。
仕事ができない人の「タイプと原因」を理解しておく
基本的に叱責の理由は「仕事ができない、会社の方針通りに進まないことによる注意」であることが一般的です。
ここからは仕事ができない社員の『代表的な3タイプ』について解説しますので、それぞれの特徴を理解したうえで、そもそも叱責の必要があるのか・効果が期待できるのか?を判断するようにしてください。
真面目で努力しているが能力不足のタイプ
真面目で努力しているものの、能力や技能が不足しているため、期待された結果が出せない状況です。本人は自分が仕事ができていないことに気付かず、周囲に迷惑をかけることもあります。
原因として、本人の性格や技能上の問題、努力の方向性の誤り、発達障害などが考えられます。
怠けているタイプ
従業員の態度に問題があり、不注意や怠惰により仕事ができない状況です。私語や私的なスマートフォンの利用が目立ち、報告・連絡・相談を怠るなどの問題行動を取ります。
原因には従業員自身の性格や仕事に対する考え方、インターネットで得た情報からの誤った権利認識などがあります。
一時的に仕事ができないタイプ
通常は問題なく仕事をこなしているが、突然業務効率が落ちたり集中力が欠けるようになり、業務に支障をきたすケースです。
原因として、プライベートでの悩み、傷病、業務過多による体調不良、職場でのストレスなどが考えられます。
一時的に仕事ができないタイプは、突然の業務態度の変化や失敗で見分けやすいです。
しかし、その他のタイプは区別が難しく、同じミスを繰り返す場合、本人は真剣に取り組んでいるが能力不足である可能性と、怠惰でやる気がないの両方を考慮する必要があります。
怠けているタイプの従業員は、注意されると「パワハラだ」と騒ぐことがあります。会社はまず真面目に努力しているが能力不足のタイプを前提に対応し、問題行動が収まらない場合は怠けている可能性を意識して対応することが重要です。
パワハラを避ける、社員への対応方法は?
①:まず「即時解雇」は避ける
仕事ができないと思われる社員が見つかった場合でも、すぐに解雇などの厳しい対応に移してはいけません。
②:従業員のタイプを見極める
先にも解説した通り、仕事ができない人には以下のようなタイプがあるため、それぞれ異なる対応が必要です。
2: 怠けているタイプ
3: 一時的に仕事ができないタイプ
③:客観的な事情を調査する
従業員の問題行動に関して、タイムカード、苦情記録、報告書、メールなどの客観的な資料を基に調査しましょう。
④:他の従業員からの聞き取り
問題行動については、他の従業員や直属の上司などからの聞き取りが重要。ただしプライバシー保護の観点からも、広範囲にわたる聞き取りは避け、信用できる社員・役員に限定してください。
⑤:社員本人からの聞き取り
本人からの相談や、他社員からの聞き取りを基に、本人への確認を行ってください。
⑥:今後の方針を決める
調査結果を基に、会社側の改善点の洗い出し、教育体制の見直し、異なる業務への配置転換、退職勧奨などの方針を立ててください。
人格攻撃をするのでなく、「本人が理解できる伝え方」が大切
一昔前とは異なり、現在では怒鳴ることによるメリットは少ないと思われます。そのため、叱責する場合でも、人格や名誉等を傷つける言い方をしないことが大切です。
昨今、人材マネジメントは大きく変化してきており、謂わゆる『体育会系的な対応』はタブーな風潮になってきました。しかし、人の考え方や価値観等の変化は時間を要するものです。
そのため、月並みかもしれませんが、管理者が従業員の動向を日々チェックすることが必要です。例えば、業務の進捗、周りとのコミュニケーション状況などが挙げられます。また、1on1等を通じて、プライベートの悩み等もキャッチアップすることも重要になってくるでしょう。
さかえ経営では、本記事で解説したような「唐突な訴えへの対応方法」や、人材マネジメントにおける「会社のルールづくり」などをサポートいたします。
従業員のパワハラ問題についてお困りの人事・労務の方は、まずはお気軽にご相談ください。
さかえ経営では、パワハラ防止のためのルール作りなど様々な就業規定の策定を法的な視点でサポートします。
懲戒、教育制度、労働時間のルールなど、どのようにしたら上手く運用できるか分からない。全て法律どおりに制度を構築すると業務が回らなくなってしまう。などお悩みのお持ちの企業の方、まずはお気軽にご相談ください。