故意の残業代稼ぎ
2019.12.27 - Friday
問題の事象
いつも急ぎの仕事でもないのに、無理やり午後10時、11時といった時間まで会社に残り、わざわざ仕事をして残業代を請求する従業員がいます。
この明らかな残業代稼ぎを禁止することはできるでしょうか。
解説(基本的な考え方)
基本的な考え方としては、労務を提供することは、従業員の「義務」であって、権利ではありません。いわゆる、就労請求権はないものと考えられている。そのため、時間外・休日労働の発生要件は、経営者・上司などからの指示の元、初めて成立します。
しかし、特段指示はないが、他の人も当たり前のように残業している、残業しないと終わらないような業務量などだとすると、「黙示の指示」とみなされる可能性があります。
また、会社側には、「残業をさせなければならない」という義務はありません。
「黙示の指示」に関しては、以下の要件があります。
● 会社から「残業するように」との業務命令をしている
● 「本日中に仕上げて帰るように」と残業をせざるを得ない業務命令をしている
● 従業員から事前の残業申請を承認している
● 従業員の判断による残業を事後になって認めている
● 従業員の判断による残業を会社側が目撃していても何も言わないでいる。
トラブル回避できない場合のリスク
時間をかけた人の給与が高くなり、生産性が高い人との給与額における不公平感が出ていきます。
また、「残業し放題」となり、長時間労働の温床になるばかりでなく、長時間労働で労基署から指導を受ける可能性があります。
長時間労働を行うと労働者の心身の健康を損なう危険があることは、メンタル疾患等にかかる労災認定基準において、長時間労働が重要なファクターとして考慮されているとおり、医学的見地は勿論、判例(電通事件、最二小判平12・3・14労判779号13)においても周知のところであるとされています。
規程・マニュアル作成上のポイント
「黙示の指示」と判断される可能性を否定するためも、規程・マニュアルには、「残業は上司等の指示による(申請書等の方はさらによい)ものとし、それ以外は一切認めないという旨の記載が必要となります。
また、月●●時間以上残業をしないというようなルールを設定することも必要だと思われます。
昨今、新設された時間外労働時間の上限を順守するのは勿論ですが、それを上限にするのは最低限必要ですが、それよりも下回る設定が必要になります。
さらには、将来的な残業禁止命令を出すことも視野に入れる必要があるかもしれません。しかし、その前に業務の効率化や、時短意識の醸成、それを評価する人事制度の構築等も必要になってきます。
運用上のポイント
「黙示の指示」と判断されないためにも、上司は部下に対して、毎日、残業の必要性の判断を行う必要があります。
また、残業を指示する場合においても、「何時まで」と終了時間を明示しておく必要もあります。不必要な時間外・休日労働を抑制するために必要なのは、管理職が部下の業務を適切に把握していることが挙げられます。
それが難しければ、裁量労働等の導入や、管理職の定義の変更等が必要になるかと思われます。
また、これまで恒常的に残業を続けてきた従業員からは、「今までずっともらってきた残業代が減っては生活が出来なくなるため、その分は補填すべきだ」という要求においては、残業代は、いわゆる所定内賃金と異なり、残業を行った場合にはじめてその対価として支払われるものであるので、答える必要はありません。
人材マネジメント上のポイント
いわゆる、「生活残業」という側面は、以前に比べて大分なくなりつつありますが、まだ色濃く残っている企業も多くあります。
日本の法律では、正規社員勿論、非正規社員であっても、契約打ち切りや解雇が難しいため、労働時間の大小によって、調整できる時間外労働は非常に有効な手段であるとも言えます。
しかし、一方で、「権利」として時間外労働が残っては本末転倒になります。
営業職であれば売上等の成果、製造関連であれば生産個数等の成果を適切に評価する仕組みを導入することにより、ノルマ管理ではなく、時短意識の醸成につなげる仕掛けも必要になると考えています。
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