リハビリ勤務の要求に応える必要があるか?その場合の賃金の支払いは?
目次
問題の事象
メンタル疾患で休職した社員が、復職にあたりリハビリ勤務を求めています。
この要求に応える必要があるのでしょうか?
解説(基本的な考え方)
規定で定めている場合を除き、社員からリハビリ勤務を求められたとしても会社は必ずしもそれに応じなければならないわけではありません。
ただ、主治医や産業医の意見を参考にしながら試し出勤や慣らし出勤を行うことは社員のスムーズな復帰を助ける有効な手段なので、柔軟に応じることも選択肢となり得るでしょう。
リハビリ勤務と試し出勤制度
リハビリ勤務とは
「リハビリ勤務」は法律によって定義された概念ではありません。
通常「リハビリ」というと社会生活への復帰訓練を意味しますが、主に病気罹患をきっかけに休職(または離職)した人が復職(または再就職)する際の試験的・訓練的な出勤を「リハビリ勤務」と呼ぶことがあります。
これには回復の段階によって様々な形が考えられるため、特定の社員が具体的にどのような支援を求めているかは一概にはわかりません。
この点、労働省が発行した
が参考になります。
「試し出勤制度」とは
この手引きでは、「試し出勤制度」を職場復帰支援の重要な検討・留意事項として挙げています。
試し出勤制度を社内で導入することにより、正式な職場復帰の決定前に、復帰への試みをより早くから始めることが可能となり、結果として早期復帰を促進することが期待されます。
長期にわたって休業していた労働者にとって、試し出勤制度は就業に対する不安を緩和し、実際の職場で自身と職場環境を確認しながら復帰準備を進めることができるため、職場復帰への成功につながることが期待されます。
手引きによると、試し出勤制度の具体例には、●模擬出勤、●通勤訓練、●試し出勤があります。
●模擬出勤とは
職場復帰前に通常の勤務時間に相当する時間帯で行う、デイケアなどでの模擬的な軽作業や図書館で過ごす方法などが含まれます。
●通勤訓練とは
労働者が自宅から職場近くまで通常の通勤経路を使って移動し、職場付近で過ごした後に帰宅します。
●試し出勤は
職場復帰の判断を目的として、本来の職場に試験的に出勤することです。
これらはすべて、職場復帰準備の一環として設けられた試験的な出勤制度であり、参考になります。
またこの試し出勤の他にも、例えばいきなり通常勤務に戻るのではなく、時間外労働を制限したり業務負荷や勤務時間を軽減した「ならし勤務」を取り入れる企業もあります。
このようなアプローチは、社員が徐々に職場環境に適応し、仕事のリズムを取り戻すのを大きく助けます。
リハビリ勤務を認めることは会社の義務か?
社員からリハビリ勤務を求められた場合、会社は必ずしもそれに応じなければならないわけではありません。
会社が就業規則や労働協約でリハビリ勤務制度を設けている場合には、社員がその適用条件を満たしていれば、リハビリ勤務を実施する必要があります。
しかし、リハビリ勤務に関する規定がなければ、社員の要求だけでリハビリ勤務を実施する法的義務はありません。
しかし、
会社にとって、復職後に社員が再び病気を発症するリスクは使用者の安全配慮義務違反としての損害賠償責任問題に直結するため、この点を考慮すると「ならし勤務」は有益です。
そのため、会社にリハビリ勤務制度がない場合には導入を検討する価値があり、また導入前の申し出についても柔軟に話し合うメリットはあるといえるでしょう。
リハビリ勤務中の賃金の発生について
リハビリ勤務中の賃金に関しては、次のように対応します。
●就業規則や労働協約でリハビリ勤務制度を設定している場合:
そこに賃金支払いの具体的な規定がある場合、その規定に従います。
●就業規則や労働協約でリハビリ勤務に関する賃金の支払い規定が特にない場合:
リハビリ勤務の形態に応じて適切な対応を検討する必要があります。
賃金は、労働契約に基づいて労働者が提供する労働の対価として企業が支払うものです。
原則的には、
と考えられます。
次に試し出勤に関しては、一定期間実際に職場に出勤するもののその目的は職場復帰の適切性を判断することにあり、実際に行われる作業は質量ともに限定的であり、本来の業務内容とは異なる可能性が高いです。
これにより、試し出勤が労働契約上の「労働」とみなされるかは、その実態によって異なると考えられます。
賃金の発生条件:労務の提供か否か
会社が社員に出退勤の自由を認め、作業の実施状況や結果に対して評価を行わない場合は、リハビリ勤務は会社の指揮命令下になく、労働契約に基づく労務の提供とはみなされないと考えられます。
●参考(西濃シェンカー事件、東京地判平成22・3・18・労判1011号73頁)
この判例では、社員が単純な事務作業を行っていたものの、その作業に対する評価がなく、出退勤の実質的な管理が行われていなかったことから、
とされています。
一方で、
この段階では社員は実質的な労務を提供していると見なされ、その労働に対する対価として賃金を支払う必要があります。
「ならし勤務」では勤務時間や業務内容が通常の業務と異なることがあるため、例えば勤務時間が所定の労働時間に満たない場合などは、就業規則に基づく賃金の調整は可能です。
ただし
とされるので注意が必要です
職場復帰支援プログラムの策定や関連規程の整備
このようにリハビリ勤務を実施するにあたっては、賃金支払い問題や事故時の労災保険の適用など疑問や争いが生じるケースも多くでてきます。
社員が安心して復帰に臨めるためはもちろん、いざというときに場当たり的な対応とならないためにも、
が推奨されます。