管理職昇進の申し出を断られたら?今後の適切な対応方法を解説
目次
管理職への昇進を拒否する係長に対して、会社の対応方法は?
A社では、突然病気で課長が急逝しました。
その後継として、筆頭係長Bに昇進を提示しましたが、Bは「昇進して先輩の課長のように忙しくて責任が重くなるのは嫌だ」と昇進を拒否しました。
A社として、どのような対応をすべきでしょうか。
就業規則に照らし合わせ懲戒手段もできるが、優秀な人材の喪失になる恐れ
働き方改革の中で、Bの様な行動をとる従業員が増加してきています。
異動に関する就業規則が明確に定められていれば、原則として解雇や懲戒の手段も考慮できます。
しかし、昇進を拒否したことを理由に優秀な人員を解雇すれば人材の喪失になり、また懲戒処分によるやる気や意欲の喪失、ひいては業績悪化につながることは避けたいところです。
一方で、Bのような個別の事情による人事を承認すれば、将来の人事管理上の支障となるジレンマに陥る点が難しいところです。
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企業の裁量としての昇進
いわゆる総合職のような職種では、将来の幹部候補として採用されていることが明示または黙示を前提とされており、配転・出向と同じく昇進についても会社側の裁量により従業員に昇進を命じることができると考えられます。
また、必然的に、従業員はこれに応じなければなりません。
昇進が労働組合働幹部への切り崩しとして不当労働行為とされる場合を除き(労組法7条3 号の支配加人否定例として、京都府・京都府労委(京都市交通局・審査再開) 事件・大阪高判平成19・1 ・25労判959号149真参照)、従業員の側で特別の理由がない限り、昇進命令が権利の濫用として無効になることは極めて稀です。
ただし、例えばその従業員が、
といった場合などは一定の配慮と健康上の事前確認が必要です。
「昇進」に関する規程・マニュアル作成上のポイント
「昇進」の概要と法規制
(1)「昇進」の意義
昇進は、企業組織において
●管理監督権限や指揮命令権の上下関係についての役割(役職)の上昇
●役職を含んだ企業内の職務遂行上の地位(役位)の上昇
を意味する場合があります。
(2)昇進の法規制
以前の裁判例の多くでは、使用者の人事評価や考課の際と同じように、昇進する者の決定、昇進基準とその運用における企業の裁量権を大幅に認める傾向があり、
労基法3条の均等待遇
同法4条の男女同一賃金
均等法6条の処遇についての男女不均等取扱い禁止
労組法7条の不当労働行為等による規制
労契法3条5項による著しい裁量権の濫用の場合
のみ例外的に規制を加えるだけでした(岩出・大系409頁参照)。
通常有利な労働条件の変更としての昇進
今回の問題は昇進差別ではなく、従業員側の昇進拒否に関する是非です。
厳密にみれば昇進は配転と同様に労働条件の変更であり、降格のような明らかな不利益変更とは異なり、
とみなされ、法的に問題になることは稀であるといえます。
しかし、全ての従業員にとって昇進が好ましいとは限らず、Bが主張するように
●増加する責任
●残業手当がなくなること
●労働組合の保護が受けられなくなること(労組法2条1号参照)
を考慮すると、必ずしも有利変更とはいえない面もあります。
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今ケースでは、昇進の指示に法的問題は見当たらない
今回の場合、昇進の必要性は確かで、A社はBに対して何ら不当な意図なく昇進の提案をしています。
特段の理由がBに存在しない限り、Bに対する昇進の指示に法的問題は見当たりません。
もしBが昇進を固く拒否し、何度もの説明や協議を経てもこれを受け入れない場合、Bに対する解雇や懲戒処分が考慮されることもあります。
優秀な人材を維持するマネジメント上のポイント
内示の前の内々示の方法なども工夫し、万一辞退され発令を控えざるを得ない場合の会社の権威へのダメージを最小化する工夫が必要です。
また、
●人事ローテーション
●登用資格制度などを用い、一定の資格取得者、能力のある者に率先して会社を支える管理職の道を開く
●優秀な人財に迷いなくリーダーシップを遺憾なく発揮してもらうような企業風土づくり
なども大切です。
部下もよく管理職を盛り立て管理職の負担を軽減させようするというような、社内の体制と雰囲気づくりにも配慮することが求められます。